先週、神奈川KAAT芸術劇場にて「双頭の鷲」前楽を観ました。バルコニー席は当日券で80枚程度空いていました。
KAAT劇場は初めてだったのですが、ミュージカルよりオペラなど一幕ものに向いている箱です。
さて、幕開きから重厚な墓場のような雰囲気を醸し出している本作品。休憩がなくてもよかったほど、全体を迫真の演技で迫っていました。
感想
スタニスラス(轟悠)
理事、また頬がこけていくというか、全然お太りにならないので、男性にしか見えません。
彫刻のようなお顔の亡き国王の肖像画が飾ってありました。その姿が高貴で理事そのものが、宝塚そのものに見えました。
スタニスラス。
テロリストでありながら、一瞬で王妃と心が通じ合ったように思えました。それほど、孤独な人生、辛い日々、それらを瞬く間に王妃と分かち合えうことができたのは、二人がとても似ているからです。
その似ているところに惹かれ、急速に愛し合う演技は難しいだろうと思いました。
ポスター写真のポーズは最初と最後の場面です。二人で心中する場面です。
身分違いなのに、殺し殺される立場なのに、今まで求めていた人に巡り会う不思議。そして、お互いがいなければ生きていけない出会い。こんな濃厚な出会い、めったに体験できません。
難しい心情を2階席後ろまでよく届きました。
王妃(実咲 凜音 )
エリザベート皇后をモチーフにしたとあり、シシイを彷彿とさせる王妃でした。特にミリオンはシシイを演じたばかりだったので、つかみやすかったのでは?
美しく、気高くも、孤独でとても傷ついている王妃。
ただ沈んでいるのではなく、立ち上がってこれないほど傷ついて疲れている。そういう演技はとても難しいですね。他人から見ると狂っているように感じます。
脱力している王妃、長い長い台詞を淡々と無表情で、時に激しく、とてもうまかったです。
スタニスラスに出会い、生きる喜び、王妃としての責任に燃えているとき、目がとても生き生きしていました。ミリオンは目の色や表情など、細かい演技のできる実力派のトップです。
もっと長くトップ娘役に君臨してもらいたかったです。
王妃役はミリオンの代表作になるでしょう。
王妃の黒い右肩だしブラックドレス、ポスターにもありますが、とてもシックできれいでした。
フィナーレのグレー×黒のドレスも素敵でした!
エディット(美風 舞良 )
美風さんのこれほど台詞のある役を観たことがありませんでした。エディットはフェリックス伯爵の元恋人で、皇太后に派遣された王妃の見張り役です。
王妃付きの女官でありながら王妃を裏切ります。
そのわけは、王妃の美貌がフェリックスの心をつかんでいることだと思います。嫉妬する意地悪な女を美風さんは、長い台詞で感情を爆発させます。
上級生だけあり、人間の醜さの演技はうまかったです。
フェーン伯爵(愛月 ひかる )
愛ちゃん、軍服+サングラス姿、かっこよすぎでした!!
身長も高く、悪役を演じていると迫力があります。
王妃を陥れて、皇太后を操り、政治の実権を握ろうとする警察のトップ。悪を取り締まるはずが、自らが黒幕で、最終的に権力争いに勝ちます。
権力をつかむための、その凄みとか、にじみ出るオーラが強かったです。
フェリックス公爵(桜木 みなと )
フェリックスは冒頭から、迷える子羊というか、始終何かに怯え怒り、悩みっぱなしでした。辛そうな表情しか覚えていません。
確かに王妃の美貌に心奪われていたかもしれませんが、それだけでしょうか?
王の親友だったと言っており、親友の無念を晴らすべく王妃に仕えている感が強いと思いました。王家を守りたい純粋な気持ちに見えました。
公爵なので、身分を重んじます。だから、貴族や王族には忠誠です。しかし王妃付きの耳の聞こえない召使い(トニー)や、スタニスラスには酷い態度を取るのでしょう。
ずんちゃんの軍服姿も素敵でした!グレー×白いパンツ。肩に黒い縁取りがあり上品でした。
ストーリーテラー(和希 そら )
かわいい少年にしか見えません。2部最初の客席から登場は、アコーディオンを弾きながらご愛敬です。
声が澄んでいるので聞きやすかったです。この物語はストーリーテラーがあった方が、迫真に迫ります。
トニー(穂稀 せり )
黒塗りのインド人みたいな子役。
エリザベートは病人など弱者にも目を向けていたそうですが、トニーは口も耳も仕えない使用人。命を狙われている王族には、沈黙できる召使いの方が安全だった?ということを感じさせます。
王妃を慕う忠実な召使いでした。
パパラッチたち
登場人物の半分以上がパパラッチ役というのが、面白い演出です。パパラッチ達もみな衣装はモノトーンです。
物語を傍観してる設定で、王妃の部屋の周りから座って事態を見守っています。このとき、壁が樹脂のカーテン(サランラップのような透明のカーテン)で透けて見えるのが面白かったです。
王妃がスタニスラスと出会い、生きる意味を見つけたときの喜びを、パパラッチ達が表現する場面は、モノトーンの衣装に一部赤い差し色をいれます。ソフト帽や、ネクタイ、花束、手袋、これらが一部赤色になることで、王妃の生きる希望を表現していました。
まとめ
スタニスラスと王妃のやりとりは、出会い、愛、死につながるので、喜びと苦しみが表裏一体です。
その人生の縮図である数日間を膨大な台詞で、緊張感のお芝居でした。
濃厚な時間でした。自分の死に場所を探していたエリザベートを思い出しました。深く色々考えた作品でした。
理事の作品です↓
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